羽生美雪さんの作品

『ハンガリーの海』での長い一日

ツアーで初めてハンガリーを訪れたのは2001年5月。それは私にとって初めての海外旅行で、接するもの総 てが印象的で忘れ難く、気がつけば11年にわたりハンガリーを想いながら過ごしてきました。その間、ハンガリーに向かうこと9回。いつの間にか、ブダペス トのメトロには路線図なしで乗れるようになり、市街中心部の要所には地図がなくても行けるようになりました。
 年々、ブダペストの街の様子が変わっていくことを実感します。でも、何度訪れても必ず夜景に魅せられ、街並みをそぞろ歩いて建物に見とれ、レストラン毎 に個性が違うグヤーシュをいただき、パプリカサラミをパンにのせて味わい、スーパーマーケットでハンガリーの人々の生活を垣間見て、郵便局で記念切手を 買ってはがきを書いて…そんな何気ない時間をゆったりのんびりと存分に味わうのが私のブダペスト滞在の定番です。ブダペストは大好きですが、せっかくハン ガリーに行くならば、やはり地方都市にも足を延ばし、もっともっとハンガリーを知りたくなります。今年、9回目の私のハンガリーへの旅では、ブダペストを 拠点に、8年ぶりにペーチ、そして初めてハンガリーの海・バラトン湖に行ってきました。ペーチ初訪問のお話は2006年のコンテスト作品で書きましたの で、今年はバラトン湖のお話をご披露したいと思います。
 
 今回の旅はブダペスト7泊、ペーチ2泊で、バラトン湖にはブダペストから日帰りの強行軍でした。これまでの私の旅は真冬が4回、10月と3月が1回ず つ、5月が2回。暖かい季節はやはり活動しやすいので、今回はゴールデンウィークをフル活用して、中央ヨーロッパ最大の湖であり、ハンガリー国内はもとよ りヨーロッパ中から長期休暇のお客さんが押し寄せるバラトン湖にもちょっと行ってみよう、という軽い考えでした。春であれば大混雑するらしい夏よりも落ち 着いて雰囲気を味わえるだろう、との発想と、旅行手帳『Been There Done That』に鉄道景勝ルートとしてバラトン湖の南北を巡る路線が紹介されていたことも手伝って、この機会に是非行ってみようと思い立ちました。
 
 ブダペストからは日帰りでどうにか行き来できるようです。でも、手もとにある過去のMAVの時刻表や路線図を見ても、湖の北側と南側のルートの違いがよ くわかりません。東京の山手線のように、一本の列車に乗ったままで湖を一周することはできないようだし、一日で訪ねることのできる街は限られるようだし、 うーんどうしよう? そんな時は即、政観さんに相談するに限ります。すぐに細やかなアドバイスをいただけて、湖の景色を楽しむならば北側ルートで、バラト ンフレド、ティハニ、ケストヘイ、ヘーヴィーズがポイントであると伺い、もう少し具体的に行程を組むには、ブダペストに着いてMAVの今年の時刻表を入手 してから…と考えたのは少々安易でした。これが私の旅につきものの『トラベルはトラブル』の伏線です。この後、想像もしなかった展開になってしまうので す…。
 
 羽田からパリ周りで、ブダペスト行きの飛行機の待ち時間に凱旋門見物へ行き、乗換経由地の街で初めて空港外へ独りでお出かけできたことに気を良くしなが らブダペストのお馴染みホテルに到着したのは、夕方に近い時間帯でした。3年前のショプロン小旅行にあたって私を親身に助けてくれたスタッフ・ジョリナ嬢 に感激の再会をした後、MAVの南駅に行き、時刻表を買おうとしたところ、なんと『売り切れ』とのこと…。これは困ったぞ…バラトン湖に行ってきたら、そ の後にはペーチ行きも計画しているのに、時刻表がないのでは調べる楽しみが激減です(インターネットでMAVのサイトから時刻は調べられますが、私はアナ ログに時刻表をパラパラめくってどのように行こうかと調べ、路線図と車窓を交互に眺めながら列車に揺られるのがこの上なく好きなのです…)。
 でも、オロオロ困っている時間はありません。なにしろ、今日ブダペストに着いてバラトン湖に行くのは明々後日。ジョリナが今日帰ってしまう前に何とか道 筋つけなくっちゃ! そこで、前回の旅から全く進歩しないインチキ英語で、メモ帳と地図を片手にジョリナに相談です。3年前と同じくたどたどしい私の片言 を、彼女は3年前よりも更に忍耐強く察する心で聴き取って、バラトン湖畔のどの街にどうやって行こうとしているのか理解し、列車のスケジュールをMAVの サイトで一緒に見てくれました。ですが…列車は座席指定が不可能な上、4月末というのに既に繁忙期に入っているので、座っていくのはおそらくとても難しい でしょう…とのお話です。
 大ショック! バラトン湖のイメージは真夏の避暑、まだ春なら余裕だろう、と勝手に呑気に構えていた私がいけなかった…。
 がっかりする私を見て、ジョリナは『バスなら座席指定で必ず座っていけるので、バスがお勧めよ』と提案してくれました。そこで泣く泣く列車の旅を諦め、 バスの旅に変更することにして、改めてスケジュールを立て直します。ジョリナは本当に献身的に一生懸命VOL?N(バス会社)のサイトを見て、バラトンフ レドまでの座席の予約をして支払も済ませてくれました。ただ、行きは難なく予約できたものの、帰りが何故か上手くいきません。一抹の不安はありましたが、 明日また予約再挑戦するので任せて…とのジョリナの力強い言葉に励まされ、ブレックファストボックスの手配もお願いして、おやすみなさいの挨拶でお別れし ました。


バラトン湖からブダペストへのバスの予約確認書

さて、翌日。センテンドレのシュカンゼンから夕方戻った私をジョリナが再び迎えてくれました。帰りのバスの 予約は非常に難航したけれども、始発のヘーヴィーズから乗るようにしてみたら何とか席がとれた、とのことです。忙しいのにどれだけの時間を私のバス予約の ために費やしてくれたのでしょう。彼女の誠意と根気にはただただ感謝しかありません。ハンガリーファンの日本人を何とか助け、楽しく過ごさせてあげようと いう一生懸命な優しい思いが伝わってきて、大感激しました。列車の旅ではないけれど、彼女の温かい配慮が本当に嬉しいバスの旅になりそうで、ワクワクしま す。
 
 出発の朝、4時に起きようとセットした筈の目覚ましが鳴らず、自力で目覚めた時は既に5時近く…! 思わず『うわぁー!!!』と叫びながら跳ね起きて、 猛スピードで身支度を整え、ブレックファストボックスを受け取りに5時半にフロントへ。ところが…お渡し時間は5時50分とのことで、まだフロントに届い ていず、私の頭の中に大きな黄信号が眩しく灯りました…。バスターミナルまでの所要時間に余裕を入れ忘れたのか、時間を言い間違えたのか…。バスの出発は 6時半。それまでにバスとメトロ乗換でネープリゲトのバスターミナルに無事たどり着けるのか、ドキドキし始めました。
 結局、公共交通機関利用を見送り、ホテルの前からタクシーに乗ろうと決め、この際客待ち中の車でいいや、呼んでもらって悠長に待つ時間はないし…と、ホ テル玄関から少し離れて停まっていたタクシーに声をかけると、今予約客を待っているというお返事が…。頭の中の黄信号は赤に近いオレンジ色に変わっていき ます。その焦りが表情に出たのでしょう。運転手さんは、仲間の車を電話ですぐに呼んでくれました。おかげで、バスターミナルには発車15分前には到着でき てホッとひと安心です。客待ち運転手さんに感謝…。
 早朝なのに、大きな荷物を抱えたお客さん達があふれかえって、待合室もホームも大混雑しています。日曜日だからだったのでしょうか…?
 バスターミナルに着いたら、ジョリナが持たせてくれた予約確認票を案内所窓口に出すようにと言われており、それらしきところの行列を見つけ、並んでみま した。しかし、なかなかその行列は進まず、発車時間が刻々と迫ります。頭の中の信号は今や真っ赤になっています。やっと順番がきて、窓口のお姉さんに確認 票を見せましたが、今度は『ここは国際線の案内所です、これはここではわからない』と、素っ気なく事務的に突き返され、私は気絶しそうになってしまいまし た…(バラトン湖から帰って来て、メトロに乗ろうとして地下に降りた時、そこに国内線の案内所を発見し、なんだそういうことだったのか…といささか拍子抜 けした私でした…地上は国際線、地下に国内線、案内所が地下にもあろうとは想像もしていませんでした。やはり、行き当たりばったりで下調べが足りないと、 このように無用な動揺を招いてしまうということですね…)。
 
 もう発車まで2分を切って、本当に時間がありません。バラトン行きのホームではお客さんが殆んど乗り終わっています。案内所探しを諦めた私は、乗車拒否 されたらどうしようと考える暇もなく、ぶっつけ本番で、バスの運転手さんに直接、予約確認表と一緒にプリントアウトしてもらっていた乗車券を見せると、意 外にも簡単に乗車券の端に切れ目を入れ、乗せてくれました。助かった…。ところが、座席指定していた一番前の私の席には先客がどっかり座っています。 ちょっと焦りましたが、運転手さんが乗っていいと言ったからには空席がある筈です…おっとラッキー、中程の窓側席がまだ空いており、そこに落ち着くことが できました。すぐ後に急ぎ足で乗って来たおばさんが私の隣に座り、おはようの挨拶をしたところで定刻発車、まさに間一髪。先ほどの驚愕の目覚めの後は本当 にギリギリ続きで、まだ6時半なのにすっかり疲れてしまいました。帰りのバスは16時20分発車、それまでもう何事もなく過ごせるのか、先が思いやられて 少々心配になりましたが、バラトン湖をこの目で見ることができる嬉しさで、隣のおばさんとインチキ片言ハンガリー単語で少しおしゃべりする間にも、ブダペ スト市内数か所のバス停でお客さんを拾ってほぼ満席となっていたバスは、高速道路をぶんぶん快調に飛ばしていきます。


バラトンアルマーディバスターミナルで10分休憩

お天気がとても良く、透き通った青空と眩しい陽射しがだんだん地方都市らしくなる車窓風景を明るく照らして、道沿いに別荘風の邸宅が増えてきたかと思うと、やがて左手に大きな大きなバラトン湖が見えてきました。
 うわぁ~本当に海みたい! いろいろあったけど、ここまで来られて良かった! バスの旅もなかなかいいものじゃないの、ジョリナ、御恩は決して忘れませ んよ…などとハイテンションで大喜びしているうち、ついにバラトンフレドのバスターミナルに到着しました。隣のおばさんにさようならと手を振ってバスを降 り、最初にしたのは、ティハニ行きのバス乗り場と時刻確認です。私の担当のスーパーコンシェルジュ・アーコシュさんが、『ティハニの見どころは丘の上の高 いところにあるので、往路にバス、船は復路に使うといい、とにかく美しく素敵な街で、気に入ると思うから、しっかり見てくるように!』と、目を三日月のよ うにしてそれは楽しそうに助言してくれていました。ハンガリー人がそんなにうっとり話す街なら、絶対行っておいたほうがいいに決まっています。何事も下調 べからということで、バス乗り場で午前中のバス時刻をメモした後、隣接のバラトンフレド駅の窓口でMAVの時刻表が売り切れていないか確認し(やはり買え ず…)、それから市街地と湖を目指してウォーキングスタートです。
 初めての街に行くと、ついついキョロキョロしつつ、ところどころで写真を撮りながら歩いてしまいます。ハンガリー風建築の立派なおうちや庭のきれいなお 花屋さんなど、暮らしが感じられる風景に見とれてはシャッターを切りながら歩くこと15分足らずだったでしょうか。何だかかわいい感じの市街地に入りまし た。そこでしばし探検し、大きな病院前の広場でのんびりして、コシュート・ラヨシュの泉の摩訶不思議な味の温泉水をペットボトルのキャップでほんの少しだ け飲んで、遊歩道を抜けて湖畔へ向かいました。…結構な人出で賑わっています。エメラルドブルーの湖水がゆらゆらと輝いて、釣りをする人、ベンチでのんび り日向ぼっこしながら湖を眺める人、行き交うたくさんの人たちはみんなリラックスした平和そのものの雰囲気です。この雰囲気こそが保養にぴったりなので しょう。まだ4月末とはいえ、どんなに遠くからでも来たくなるのがわかります。私もすっかり気に入ってしまいました。ホテルから持ってきた大きな朝食ボッ クスをベンチで開き、湖を見ながらサンドイッチを頬張り、バナナをかじり、すっかりぬるくなってしまった水をごくごく飲んで、遠足気分にひたりながら、と ても穏やかで幸せな遅い朝食を満喫しました。サンドイッチはおいしかったけれど、湖畔の空気もまたとてもおいしかった!
 湖を眺めているだけで、今朝の目覚めからバス乗車までの慌ただしくスリリングな出来事が全部どこかへ飛んでいく位にいい気分。バラトン湖って凄い。バラ トン湖って素敵。3年前に見たショプロン近郊のフェルトゥー湖も印象的でしたが、バラトン湖はまた全然違う雰囲気で、ずっと見ていたいような広々とのどか な風景に、ベンチから立ち上がることもしばし忘れ、本当に頭の中を空っぽにして長いこと見とれ続けておりました。リフレッシュ効果満点です。食べ終えてか ら軽く30分以上はベンチに座ったままだったと思います。
 船着場付近は一層人出が多く、賑わっています。どんどん日が高くなり、既に真夏のような強い陽射しで、肌がじりじりしてきます。4月下旬とは思えない暑さ。でも時折吹く風がとても爽快で心地よく、これぞまさしくリゾートです。

    
               ヨーカイ・モール博物館                        緑に囲まれたホルヴァート・ハーズ

                                                                                 とかわいい花壇


      コシュート・ラヨシュの泉                             大きな病院前の大きな広場      
中の方に降りると温泉水を                         いたるところにベンチが
飲めます。飲み放題です。                         あり、ゆっくり休めます
でも、味はなんというか…(後略)                                                                     

うっとりする視界の端に、白くて長いものが道端に停まっているのが見えました。観光列車リリプットです。乗 り物好きな私としては是非乗ってみたく思い、係員のおじさんに料金700フォリントを払って乗せてもらいました。明らかに東洋からの観光客まる出しの私 に、リリプットのおじさんは笑顔で市街地の地図をくれました。なんかサービスいいなぁ~と喜んだ私でしたが…これがまた『トラベルはトラブル』の更に大き な伏線となってしまったのでした…。
 リリプット、なかなか出発しません。バラトンフレドの雰囲気にすっかり魅了されてボンヤリしてしまっていたために、乗車前に『いつ出発して、所要時間は どの位でここに戻るのか』を確認し忘れたまま、料金を払ってしまっていたのでした。しかも、その重大な確認漏れを自覚せずに、座席に座ってからもひたすら バラトンフレドの風景を堪能していたせいで、『いつ出発するんだろう』と疑問を持つまでに至らなかったのでした…。
 ほどほどにお客さんを乗せてようやくゆるゆると動き出したリリプット、市街地を抜けて住宅街まで広いエリアを進んでいきます。自分で歩いてこなかった地 区も見ることができ、地元の人々の生活場面に触れられて、とても楽しい乗り物で嬉しかったのですが…途中、バラトンフレド駅近くで停車し、何人かのお客さ んが降りた時に、一緒に降りてバスターミナルへ行けば良かったのです。出発地点まで戻ったために、ティハニ行きのバスに僅差で乗り遅れるという情けないア クシデントを引き起こしてしまいました。これは自業自得ともいえる状況ですね…。


           リリプット 観光地らしい乗り物            リリプットから眺めるバラトンフレドの街並み

                       イタリア製のようです

でも、嘆いても仕方がありません。次のバスを待つか、結構きつそうだけど船で行くかを決めなくてはなりませ ん。行きの船の時刻は見ていなかったので、また船着場まで見に戻ることにしました。暑かったけれど、早足で頑張って船着場へ行ってみると、バスの方が15 分早く出ることがわかりました。そこでやはりバスで行こうと決め、またバスターミナルに戻り、流れる汗を拭き拭きバスを待ちました。
 ところが…発車時刻になってもバスが来ません。ちょっと遅れているのかも…と楽観的解釈をしましたが、それから5分ほど待ってもやはりバスは影も形も現 れません。私と同じように、来ないバスを不審に思ったらしいお客さんが、別のお客さんに何やら尋ねています。ヴァシャールナプ(日曜日)という単語が聞こ え、悪い予感がよぎりました。…もしや、『日曜運休』というやつでは?? …ビンゴのようでした。時刻の横に小さな記号がついており、それはたぶん『日曜 運休』を示すものだったのです…ああ、また確認不足でアクシデントを呼んでしまった…。
 もう船でティハニを目指すしかありません。再び船着場へ走りました。湖畔へ抜けるなだらかな下り坂に入ると、転げ落ちるごとく、日本にいても普段これ程 全力疾走することがない位に爆走しました。そして、船着場に息せき切ってようやくたどり着いた私の目に入ったのは、たった今岸を離れたばかりの船………。 飛び乗れば乗れそうなのに、あっという間にスピードが上がり、どんどん遠ざかっていってしまいました……。なんということでしょう……ああ無情……。
 『はぁ~~……これでティハニには行けなくなっちゃったなぁ……』残念無念を通り越し、虚脱状態の私は、汗だくで息も絶え絶え、髪もぼろぼろに乱れて、 傍目にはたぶん東洋のお化けのようだったのではないかと思います…。一生懸命バスの手配をしてくれたジョリナと、三日月の目でティハニの話を楽しそうにし てくれたアーコシュさんの顔が浮かび、二人にこの事態をなんと説明すればよいのか、ただひたすら申し訳なさと情けなさで一杯一杯な私でした。
 
 ブダペストへ戻るバスの時間まで、あと2時間半ほどあって、このまま打ちひしがれて過ごすのはあまりにももったいなく、せめてティハニに少しでも近づく ことができればと思い、1時間コースの遊覧船に乗ってみることにしました。出航の待ち時間に改めて湖畔をゆっくり散策し、揺らめくエメラルドブルーの湖と ゆったり滑っていくたくさんのヨットを風に吹かれながら眺めていると、つい先ほどの大ショックが徐々に薄れ、ティハニに行けなかったのはきっといつか再び バラトン湖に来るためのきっかけ作りということだったのかも…バラトン湖が私の再訪を待っているんだ! という思いが湧いて、少し元気が出てきました。
 私は『トラベルのトラブル』に対してはこのように都合良く解釈する、おめでたい人間なのかも知れません。ハンガリーに旅するようになってから11年、そ れまでは細かいことに拘ってくよくよ考え込む傾向でしたが、どういう訳か、ハンガリーの大地や人々の大らかさが私自身に少しずつ変化をもたらせ、いい意味 で『まぁいいさ』と思えるようになってきたのではないかと感じます。へこむ出来事があっても、すぐに立ち直れるパワーを、私はハンガリーから大いに貰って いるようです。幸せなことですね。だから、立ち直りのエネルギーを得るために、何度でもハンガリーに来たくなってしまうんだ…と今更ながら実感しました。


      この白い船で1時間のショートクルーズ     バラトン湖 タゴール遊歩道からののど

                                                                          かな風景真ん中左は釣り人です


ヨットハーバーそばから見たタゴール遊歩道

遊覧船は帆柱を立てた大きなヨットで、出航時刻間際に湧くように集まってきた大勢のお客さんを乗せ、エンジ ンで岸からかなり離れたところまで進んだあとに真っ白な帆を張り、風まかせにゆっくり進んでいきます。暑いのですが、さすがに水の上は風も一層爽やかで す。水面に反射する陽射しがとても強いのに、西洋人のお客さん達はその殆んどが直射日光と水面からの照り返しをたっぷり浴びながら、船縁から水面に手を延 べたりして楽しそうです。大きなサングラスをかけた半袖やノースリーブ、短パンにサンダル姿の人が大勢いる中、帽子をかぶり袖の長い服で日焼け止め手袋着 用なのは私ぐらいでした。きっと、妙な東洋人に見えていたことでしょう…西洋の方々と私たち日本人では、日焼け対策が随分違うようだ、と感じさせられたひ とこまでした。
 何雙ものヨットやプレジャーボートとすれ違いながら、風に吹かれて緩やかに船は進み、ティハニの丘の上の教会がだんだん大きく見えてきました。またいつ か必ず来よう、と目を凝らして見つめているうち、名残惜しくもぐるりと大きく方向転換した船は、今度は遠くに小さく見えるバラトンフレドの街並みへ向かい 始めました。波がないので船が揺れることもなく、滑るように静かに進んでいくのがとても快適で、ティハニのそばまで行けたしこれはこれでまた良かったと思 える、1時間の大型ヨット体験でした。


                     素敵なお嬢さんたち              道の向こうの不思議な建造物群…

                                                                  ハンガリー風ではないですね


ティハニの丘の上の教会 今度こそ間近で見なければ

短い船旅が終わると、あとはもうブダペストへ戻るだけ。今日一日で一体何度この道を往復したのかと数えるの も嫌になる、バスターミナルへの道を歩きます。帰り道というのは独特の寂しさを感じるものですが、この時に限っては、寂しさよりも、穏やかにしてスリル満 点で長かった一日の重たさに圧倒され、足取りまでも随分重たくなっていました…。とはいえ、バラトン湖デビューとバラトンフレドの街をしっかり満喫できた 嬉しさは、何ものにも勝るものでした。
 ヘーヴィーズから来た帰りのバスは紛れもなく定刻運行で、絶対に乗り間違うまいと行き先を指差し確認しつつ乗り込み、座席に座ると急に疲れと睡魔が押し 寄せてきて、せっかくの湖畔風景を充分に堪能できないまま、ブダペストまで殆んど眠ってしまったのが残念でした。
 
 ブダペストのバスターミナルに到着し、メトロに乗り換えるために地下に降りたところで、出発の際に発見できなかった国内線の案内所を見て愕然としたのは前述のとおりです。
 
 セールカールマーンテールで夕食を摂ってホテルに戻ると、アーコシュさんがフロントで仕事をしていて、私を見つけるや否や『今日はどうだった?』…バラ トン湖とバラトンフレドは最高だった、大好きになったと答えれば、『ティハニは?』…今日一番訊かれたくない質問…思い切って正直に『行けなかった…』と 答えた時のアーコシュさん、目をまん丸にしてしばし絶句。絞り出すように『なんで? バスに乗れなかったの? 何があったの?』そこでリリプットの写真を 見せ、『これのおかげでバスに乗り遅れたし、船にも乗れなかった…』しょげる私に『なら、明日もう一回行ってきなさい! Ms.ハニュウ、君には新しい ニックネームをあげよう。Ms.ティハニュウだ!』と苦笑しながら言うアーコシュさん。私も一緒に苦笑いするしかありませんでした…。
 ジョリナにはその後2日会えませんでしたが、再会の際、ジョリナのおかげでバスに乗れて、素晴らしいバラトン湖が大好きになって、いい旅ができて本当に 嬉しかった、と改めてお礼を言いました。やはりティハニへ行ったのか訊かれ、バラトンフレドが気に入ったので長い時間いたから行けなかった…と、決して間 違いとはいえない答えをしたのでした。でも他にも理由があったことは、きっとアーコシュさんから聞いて知っていたかも知れません。
 
 今年の夏は北海道もとても暑く、4月末で既に北海道の真夏並みの暑さだったバラトン湖のことを、強い陽射しの日々にはいつも思い出していました。列車の 旅の筈がバスの旅になったことを皮切りに、トラブルの続出まで含めて大いに満喫したことは、とても愉快な忘れ難い思い出となって、夏のようだったあの長い 一日でできた強烈な日焼け跡とともに現在に至ります。
 いつか必ずバラトン湖を再び訪れ、今度こそティハニへ、そして他にもある湖畔の素敵な街へ行こうと決心しています。日帰りではなく、是非1泊ぐらいはし て、大きな湖の日の出や日の入りを見てみたいものです。そうそう、その際は、日焼け止めクリームはとにかくたっぷり、こまめに塗り直さないと!!
 
 いつもきめ細かな現地情報をご教示下さる、ハンガリー政府観光局日本代表の勝田さま、そしてジョリナ嬢とアーコシュさん始めハンガリーの温かく優しい皆さまに、心からの感謝を申し上げ、長い長い今年の思い出話を終わらせていただきます。
 皆さま、いつも本当にありがとうございます!